退職金規定(規程)



 企業の退職金制度を考えるときに2つの視点を必要とします。一つは退職金制度の運用の根拠となる退職金規定(規程)であり、もうひとつはその規定により支払われる退職金の資金準備の方法です。

 退職金制度を考える際に、この2つの視点のおのおのについて考えることが退職金制度を理解する上で大切です。

 

ここでは、退職金制度の退職金規定(規程)についてみてみましょう。

 

退職金の法律的位置づけ

 

 法律上、退職金制度の作成は義務付けられているわけでありません。実際各企業で退職金制度を定めるか又は定めないかは自由な任意の制度です。

ただし、退職金は、いったん就業規則などに退職金制度を定めてしまえば労働条件の一つである賃金とみなされます。

 会社側が勝手に退職金制度を廃止することや退職金を減額するなどのいわゆる不利益変更はできません。つまり、規定(規程)を定めた以上その履行は会社側の義務となります。

 また、気をつけなければいけないのは、就業規則などに退職金制度の定めがなくても、明確な基準に基づいて退職金が支払われているような事実がある場合は、退職金支払の慣行が確立しているとみなされます。

 

退職金規定(規程)とは

 

 労働基準法で「退職手当(退職金)の定めをする場合には、基準を就業規則に定めなければならない」となっており、この付属規程としての「退職金規定(規程)」は就業規則の一部といえます。

 

退職金規定(規程)に規定(規程)する事項

規定項目

内容

適用される労働者の範囲


労働者の国籍、信条、社会的身分を理由として、退職金の支給額や支給条件などに差別を設けることはできません。又、労働者が女性であることを理由に、男性に比べて差別的な取扱いはできません。なお、「差別的取扱い」とは、不利に取り扱う場合だけではなく、有利に取扱う場合も含まれると解されており、女性が結婚したときに退職させることを目的に、女性の結婚退職に限って退職金の支給条件を優遇する旨の規定なども「差別的扱い」とみなされます。

退職金の額の決定、計算及び支払い方法




勤続年数や退職事由などの退職金額の決定の要素、退職金の算定方法、一時金で支払うのか年金で支払うのかなど支払いの方法。

退職金は通常直接労働者にその全額を支払わなければならない。但し、労働者の同意を得た場合に限り、労働者の預金口座に振り込むことや小切手で支払うことができます。

退職金の支払の時期




労働基準法は第23条(金品の返還)で「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合には、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称のいかんを問わず、労働者の権利に関する金品を返還しなければならない。」と規定しています。

退職金は退職事由のいかんによっては支給されない場合もある「支給停止付債権」と解されることから上記の「労働者の権利に属する金品」に直接該当するものではありません。

退職金の支払い期日に関する行政解釈は、「退職手当は、通常の賃金の場合と異なり、あらかじめ就業規則等で定められた支払期限に支払えば足りるものである。」とされています。

但し、労働協約や就業規則に退職金の支払期日について特段の定めがない場合は、労働基準法第23条の適用を受け、請求があれば7日以内に支払わなければならないことになります。

支給基準


勤続年数何年以上から支払うかを決めます。

退職事由別支払い係数

会社都合か自己都合かで支給係数を定めます。

支給制限

不支給又は減額事由を設ける場合はその内容を決める。

 

退職金規定(規程)の変更

 

 退職金規程は法律上、就業規則の一部とみなされていますので退職金規程を変更する際には、就業規則の変更一般についての規定が適用される。

 

 就業規則の変更に関して労働基準法は、

 

・労働者代表の意見を聞く

・労働基準監督署への届出

・労働者への周知義務

 

を定めています。

 

 

退職金制度における退職金規定(規程)の問題点

 

退職金規定(規程)における最大の問題点は、退職金の計算方法にあります。

 

もしかして、御社の退職金の以下の計算方法になっていないでしょうか?

 

退職時の基本給×勤務年数×係数

 

 この計算方式を採用しているとしたら退職金規定(規程)見直しを急がれる必要があります。この方法は、勤続年数が長くなるにしたがって、退職金の支払額が増加していきます。しかも年齢や勤続年数が増えるごとに急激にせりあがる二次曲線的なカーブを描きます。


「退職金原資に関わらず支給額が増大する」

「退職時の基本給が分からないので支給水準のコントロールが難しい」

といった2つの大きな問題点が指摘できます。


 規定(規程)にあるものは、従業員の既得権となります。たとえ会社が赤字だろうが倒産寸前だろうが、退職金は支払わなければなりません。退職金倒産に至ってしまう可能性も否定できません。

 

 

中小企業の退職金対策とは?

 

見直しの手順

 

1.現行制度の延長線上の制度改定ではなく、新たに退職金制度を導入する場合、どのような制度が自社にとってあるべき姿なのかを考えることが必要です。

 

具体的には

 

 

といった点を考慮する必要があります。

 

2.また、次に新たな退職金制度を、現在の社員にどのように適用させるかを検討します。

既得権の保証:制度改定日の前日に退職したものとみなし、旧退職金制度で計算した退職金額を保証する

激変緩和措置:例えば、向こう10年間に退職する社員については、旧退職金制度と新退職金制度を試算してみて、有利なほうを支給する

などを設けて、社員の同意を得られやすい工夫が重要になります。

 

本給との連動を断った退職金制度へ

 

 昨今の成果主義型による賃金体系に変更する企業が増えるにつれて、退職時の基本給が生涯賃金の中で一番高いわけではないという矛盾が生じたり、終身雇用を前提として基本給連動型の退職金制度の問題点が指摘されるようになりました。

基本給連動型(退職時の基本給×勤務年数×係数)をやめることです

つまり、基本給との連動を断つことが重要な退職金改定の目的になっているといえます。

 

基本給と非連動の退職金制度には、次の4種類があります。